第一幕 第二場

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プロローグ・一幕一場
一幕三場

(前回の打合せから1週間後、場所は同じく新居さん方のリビングルーム、間もなく来るであろう阿伊さんを迎えるべく建造さんは図面を眺めている。玉枝さんは台所でお茶の支度。息子の杉太君は まだ学校からかえっていないようす。)
新居玉枝 「あなた、そういえば赤紙がきてたわよ」
新居建造 「赤紙?・・・召集令状じゃあるまいし。なんだい????」
玉枝 「この前の招待券みたい。女子十二楽紡」
(飛び上がって玉枝さんの元へ駆け寄る建造さん。子供みたいな喜び様だ)
建造 「おおぉー、来たか〜〜やっと来たか!待ってた父さんだ!!」
玉枝 「なに バカな事言ってるの。ほんとにもう」
(そこへインターホンがなり玉枝さんが答えると、阿伊さんが現われる。)
阿伊 「コンニチハ、お邪魔します」
玉枝 「いらっしゃい。お待ちしてましたわ」
(一通りあいさつが済むと、阿伊さんが早速話を切り出した)
阿伊 「先日はどうも有難う御座いました。大体の構想は お考えになっていただきました?」
建造 「いえっそれが・・・すみません! 妻とも色々話したんですが とりあえず、全体をどうするのか 概略を決めてから 細かい事を決めていこうかと思いまして、それには、阿伊さんのお話を伺ってからでもいいのかなと思いまして・・・・どうでしょうか?」
阿伊 「そうですか。判りました。私も今日、おおよその考えをまとめてきましたので その方向でお話をさせていただこうかと思います。資料もそれにそって用意してきましたので それらを見て頂きながら 話を進めさせていただきたいと思っています」
阿伊 「んーーと、まず、前回おうかがいした時に、門扉やフェンスといった 敷地と道路をさえぎるものひは、特別にこだわっていらっしゃらないという事でしたので、思い切って完全に開放してみたらどうでしょうか。本体建物も形としては総二階で すこぶるシンプルですから いっそのこと道路側は何にもないというのはどうですか」
玉枝 「何もない????」
阿伊 「そうです。何もなしです。玄関口まで誰でも入ってこれる。車も人も自由に入れますが、でも、庭へは何らかの遮蔽物を作って 出入り出来ないようにします。つまり、オープンな部分とプライベートな部分をはっきり区切ってしまいます」
(玉枝さんが段々無口になってきた。今ひとつ、理解できないのか、納得いかないのか クビをかしげている節もある。建造さんも怪訝な顔をしながら 聞いてきた)
建造 「簡単にに言うとコンビ二の駐車場みたいなものですか?」
阿伊 「ウーーん・・・そう言えなくもないですね」
玉枝 「んッ???我が家がコンビニ・・・・・・・?。」
(いささか、状況が飲み込めない玉枝さんですが・・・・・・・・)
建造 「例えが少し適切を欠きましたか?だったらアメリカ映画に出てくる様な住宅のイメージでいいんですかね?道路から玄関まで 芝生の庭にアプローチが玄関までのびてて 新聞配達の少年が新聞を玄関脇にポーンと放り投げると 中からダーリンが出てきて拾い上げ、目を落とす」
玉枝 「アラッ 」
(コンビニと聞いた時の ちょっとむっとしたような顔から 語尾を下げて玉枝さんの顔がパッと明るくなる。)
玉枝 「おいっ サマンサ!大変だーーー・・・ってダーリンが大きな声だすんですよね」
(『奥様は魔女』かよッ・・・と心の中で突っ込んでみる 阿伊さん)
阿伊 「はっはっはッ そうですそうです 分かりやすいコントを有難う御座います」
玉枝 「どういたしまして!!ご希望があればもう一度やりますけど?」
(恐縮しきりの阿伊さんです)
阿伊 「あ いえいえ もう結構です。 有難う御座います。でも奥さんはけっこう乗りやすいタイプなんですね」
建造 「ときどき ピントが外れますけどね」
(玉枝さんも相槌を打って)
玉枝 「そうなのヨ。 友達には悪乗りのし過ぎだって云われてね・・・・」
阿伊 「で まあ そのアメリカ風の・・・・・・・」
(強引に話を元に戻そうと悪戦苦闘の阿伊さんです)
阿伊 「アメリカの映画やテレビのホームドラマに出てくる、道路側が芝生の庭の家は大体が 反対側にプライベートヤードと呼ばれる庭を持ってるみたいですね。しかも殆どの場合が完全に目隠しをしています。そしてそこで、子供と遊んだりバーベキューを楽しんだりと 他人の目を気にすることなくできるわけです。今回、その辺の考え方を ほんの少し 拝借したらどうかなと思ってます」
玉枝 「ふむふむなるほど!!なんだか良さそうね。わくわくしてくるじゃない」
阿伊 「東側が道路に面してますので 建物は北側と西側の境界に寄ってます。つまり、建物本体は東側の道路に面したほうと南側が庭として空いている配置になってますね。ただ、敷地の広さや方位の関係で イメージとどうりにはいかないと思いますけどね」
玉枝 「それはつまり、敷地が狭いとおっしゃっててる訳ですね?」
(阿伊さんはいささか慌てた様子ですが)
阿伊 「ん〜〜と まァー平たく言えばそういえますでしょうか」
玉枝 「山なりに言ったって 同じでしょっ。」
(建造さんはふたりのやりとりを にこにこしながら聞いている)
阿伊 「敷地の東側が道路で玄関も東側にありますから、南側の空いてる部分が庭になるわけですね。そうすると必然的に東側に駐車スペースをとる事になります。車を置く場所はどうしても何らかの形で舗装されていた方が使いやすいと思います。雨が降ると どうしてもぬかるんだりしますので」  
(建造さんも玉枝さんも黙って聞いている)
阿伊 「そこで、前回の打合せで 舗装の仕上げとして奥様からご提案のありました 玄昌石を使う事も出来ますが、この話はもう少し先ですることにしましょう」
玉枝 「へ〜〜もう少し具体的に言ってもらうと どうなるのかしら?」
(阿伊さんはカバンから図面を取り出す)
阿伊 「ここに 参考のプランがあります」
(そう言って テーブルの上に二枚の図面を広げた)
阿伊 「比較していただければと思い ふたつお持ちしました。駐車場部分と庭の仕切りすが、方法はいくつかあると思いますが、あえて自分なりに名前を付けさせていただくと ソフトな区切り方とハードな区切り方といってもいいと思います」
玉枝 「ふ〜〜ん。ソフトは区切りとハードな区切り?」
阿伊 「はい。区切りというか 仕切りですけどもネ。プライベートな部分とオープンな部分の」
建造 「ええ、判ります」
(そのときチャイムが鳴り、学校帰りの杉太君と大家さんが連れ立って入ってきた)
玉枝 「アラ お帰りなさい。大家さんもご一緒で・・・いらっしゃい」
杉太 「ただ今、阿伊さん今日は!さっき途中で大家さんに偶然会って 阿伊さんが今日打合せに来てるはずだって話したら 一緒に来ようと言う話なって それでご一緒したんです」
阿伊 「どうも、お邪魔してます。大家さんしばらくですね。いつもお元気そうで!!!」
大家 「ええ、有難う御座います。どうですか、お話は進んでますか?」
阿伊 「ハイ おかげさまで、順調です。これから資料を見ていただいて詳細をお話しようかと思っているところです」
大家 「おうおう そうですか。私も見せていただいてもよろしいですかな。そばでおとなしくしてますから」
建造 「どうぞ どうぞ」
阿伊 「まず 一つ目ですが 東側の駐車場と南側の庭をさえぎる方法として植え込みをレンガやブロックなどで作り、庭への入口も門扉で区切ってみました」
玉枝 「ふ〜〜ん・・・・・・!!」
阿伊 「その植え込み、フラワーボックスですね。その中に目隠しと賭して、つまり道路から庭の中が見えないように木を植えます」
建造 「あーーなる程判ります。そして、もう一つの方は?」
阿伊 「はい、ふたつ目がこちらです。基本的な考え方は変わりません。が 庭と駐車場の区切りを 木を植えるだけで考えてみました。それも、あまり型にはまったやり方ではなくて 色々な木を 言うなれば適当に植えます。いわば雑木林ですね。例えば常緑樹や落葉樹を混ぜて 花木、つまり綺麗な花の咲く木や 実のなる木でも良いでしょう。好きな木を植えます。又、庭への通路はけものみちみたいにして 途中に小さな枝折戸をつけるだけです」
玉枝 「けものみちなの!!へえ〜〜びっくりね!」
阿伊 「そのけもの道は正面からはできるだけ見えない位置に簡単に作ります」
「そうすると、道路の方から見ると、ただの雑木林が見えるだけで その奥にある庭は全くといって良いほど見えなくなります」
(阿伊さんはここで一旦 話すのをやめて皆の反応を待つ)
杉太 「ひとつ質問してもいいですか?」
阿伊 「どうぞ」
(杉太はふたつ目のプランを差して)
杉太 「ここの林の部分ですけど 先行きどうしても駐車場を増やしたい場合、比較的簡単に転用できますか?」
阿伊 「はい。簡単にできます。」
阿伊 「一つ目の計画だと、レンガ部分は必要のないところまで 一度、全部壊さなければなりません。そのためには植栽も全て作り直しになります。さらに、こういった植え込みの中は普通サツキやツゲといった木を下草として使いますが、いちどバラしてしまうと これらは二度と使えませんので捨ててしまうことになります。勿論、レンガやブロックも同じですね」
阿伊 「その点、ふたつ目の計画では、今のようなケースでも 植え替えで枯れる というリスクだけで 何度でも再利用可能です」
(それまでじっと聞いていた大家さんが ポツンとつぶやくように言った)
大家 「工事費用もこちらのふたつ目の計画のほうが ずっと安くあがりそうですナ」
玉枝 「あらっ 大家さんそうなんですか?・・・それは大歓迎だわ」
(安くあがるという事は いずれの奥さんにも歓迎されるようです」
阿伊 「おっしゃるとおりです」
玉枝 「でも、私、図面て 見ても よくわからないのよネ」
阿伊 「それでしたら、こちらに写真がありますのでご覧になりますか?」
玉枝 「見たいわ、見せて」
建造 「その前に 玉枝チョッとお茶でもいれない!・・・・なんだかお腹もすいた見たいだし。杉太はお昼ご飯はすませたのかな?」
杉太 「ううん、まだなんだ。話が面白いので ついうっかりしてたよ。お母さんなんかある」
玉枝 「わかったわ。ジャーしばらくお茶にしましょうか。ちょっと待っててね。大家さんはしっぶーいお茶がよろしいんでね?」
(しっぶーいお茶と強調しながら)
玉枝 「よいしょ!」
(と掛け声をかけて立ち上がる玉枝さんは すでにオバサンを自認している)
大家 「ああどうも すみませんな。ところで建造さん、何かのコンサートのチケットに当選したそうですな。いやね、さっき杉太君とこちらへ伺う道々聞いたんですがね」
建造 「そうなんですよ。いやーもうびっくりしましてね。まさか当たるなんて全然思ってもみなかったので感激ですね。ああそうそう つい先ほどその当選の通知がきました。これがそうです。なんだか、これでやっと本当なんだと実感できたところなんです」
大家 「ほほーう、ところでなんですかこの”女子十二学坊”というのは?」
建造 「中国の女性12人で作るバンドです。古い昔の楽器を使ってましてね。これがまたいいんですよ。女性もきれいな方ばかりで まあ私もそういう意味ではオジサンなんでしょうけど  ハハハッ」
阿伊 「前回、こちらで打合せをが終わったあと、実は私も、楽坊のDVDを買って帰ったんです。丁度パソコンに新しく取り付けたDVDのテスト用にと思って!」
阿伊 「そうしたら これがもう素晴らしくて、今まで何回聞いたか判らなくらい夢中になってしまいましたね。なにしろ、メンバー全員の名前を覚えちゃいましたから」
杉太 「本当ですか?中国名って覚えづらくありませんでした?」
阿伊 「そうですね、でも好きこそ物のなんとやらで 二日目くらいには画面に出てるメンバーの顔を見ただけで 名前が出ますから。でそのあと、他のCDやDVDを買ってきて毎日見てますよ」
建造 「仕事のほうは大丈夫なんですか?図面が間に合わないーーなんてといわないで下さいよ」
阿伊 「あっははは、その時は許してください。ところで、新居さん コンサートにどなたと行かれるか決まりましたか?」
建造 「いいえ、まだです」
大家 「ほほう、その切符はお二人行けるんでか?」
建造 「ええそうなんです。相当人気のバンドなので 誘えばだれでも 行きたがるのかと思ったんですが 案外誰もいないんですネ。意外や意外です」
大家 「それだったら阿伊さんとご一緒したらどうです。にわかファンなんでしょ?」
(にわかファンとはいえ、熱狂的なファンのひとり自認する阿伊さん、心の中では”シメタ”と思うが・・・・・)
阿伊 「それはどうでしょうね。僕は個人的にはコンサートは二人で行くからには やはり男女同伴でしょう 。奥さんと二人で行くべきでしょう」
建造 「でもねー なかなか うんと言ってくれないんですよ。何しろ”演歌一筋”の人ですから」
大家 「その切符は普通には買えないのですかな?」
建造 「ええ 即日完売だそうです。ものの何分かで売り切れたそうですよ。とても我々には買えないですね」
(そんなことを話しているうちに、玉枝さんがお茶を持って部屋に入ってきた)
玉枝 「なんだか随分話が弾んでるみたいだけど、何の話?」
建造 「今度のコンサートの話。あなたが行きたがらないという話」
玉枝 「演歌じゃないもんね。阿伊さん一緒に行かれたらどうですか?お好きなんでしょ?」
阿伊 「そりゃ確かにそうですけどね。でもね、やっぱりこういう場合 男女で行くべきでしょう。男同士では気持ち悪いと思いますけど。ねー大家さん」
(少し困った様子の阿伊さんは、話を大家さんに向ける)
大家 「なんだったら私がご一緒しましょうかナ」
(一瞬目を見張った玉枝さんが 一呼吸置くと)
玉枝 「あっはははは・・・・」
(大家さんもつられて一緒に笑い始めた)
玉枝 「ねー建造さん・・・いいんじゃない。大家さんとデートなんて イカスわよ」
玉枝 「ねぇー大家さん、いっそのこと女装でもして行ったらど〜う。似合うかもよ」
(一瞬、目が点になった大家さんだが、すごく喜ぶと)
大家 「ぜひ、お願いします。あっそうだ・・・その時は玉枝さん写真をとってくださいね」
玉枝 「おまかせッ!!!きれいに撮ったげるわよ」
(ワルノリする二人に、まいどの事だと、笑いながら見ている建造さんと杉太君。何がどうなってるのか 呑み込めないでいる阿伊さんです)
阿伊 「建造さんホントに女装した大家さんとコンサートに行くんですか」
大家 「へっへへへへへ・・・・・・阿伊さん本気にしてるの?」
阿伊 「えっつ、やっぱり冗談ですか。びっくりしたなもうー」
(他愛ない話をしながら 皆でお茶の時間を過ごします。ひとしきり”女子十二楽坊”で盛り上がりますがいよいよ話は具体的な内容に踏み込んでまいります。場所は同じく新居家の居間、お茶が終わり一息ついたところから第一幕第三羽ははじまります。))
第一幕第三場へつづく
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